「家具の修復ってどんなことをするんですか?」とよく質問されます。
日本では家具の修復はあまり身近なものではないので、どんなことをするのかイメージがわかないと思います。
「修理」をイメージされる方も多いと思います。

実は「修理(Repair)」と「修復(Restoration)」は同じではありません。

「Repair」はそのものの機能が失われている場合に、見た目を意識することなくその機能をもとに戻す、ということだけに特化した作業になります。
たとえば、椅子の足が折れて使えなくなっている場合、その椅子を椅子として使える状態に直す、ということです。
このとき、元の椅子の足がどのような状態(模様や色、素材、木目など)だったのかは気にしません。
また、本来、クギやネジなどを使うべきでないようなときでも、一時的に機能を戻すために使用してしまうこともあります。
なので、修理した箇所がはっきりとわかってしまい、美しくありません(一部の鍛冶屋職人による修理は別もの)。
さらに、数年後にまた同じ箇所が壊れてしまうことが多々あります。

一方、イギリスにおける「Restoration」というのは、そのものの機能を元に戻すだけでなく、元の状態(強度と見た目)に限りなく近づける、という作業になります。
どの種類の木材を使っているのか、もともとはどのような模様があったのか、色も残っている部分に合せていきます。
それが作られたときの状態(新品の状態)にするのではなく、作られて100年経っているものであれば、100年の時を感じるような古さを表現しなければなりません。(ヨーロッパ大陸におけるRestorationは古さを消して新品のようにすることもあります。)

また、「Conservation」という作業もあります。これは日本語に訳すと「保存・保護」となります。
「Conservation」は時とともに朽ちていってしまう老朽化を現状維持で食い止めるような作業になります。
現在すでに壊れてしまっていたり失われてしまっていたりする部分を元に戻したり新しく作ったりはしません。
それ以上朽ちていくのを食い止めるために必要な最低限のことだけをします。
博物館などに展示されているものなどはRepairやRestorationではなく、Conservationがなされることが多いですね。

私は修復士ですが、いつもRestorationだけをしているわけではなく、クライアントの希望に合わせ、ConservationしたりRestorationしたりします。
実際に写真で見ていただく方がわかりやすいと思うので、以前、私が実際に修復(Restoration)した家具を2点ご紹介します。

こちらは1900年前後の傘立てです。

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犬がかじってしまってかなりダメージがあります。
その部分を切り落とし、同じ種類の木材で元のように作り、色も合わせてその部分だけ塗装し直します。

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こちらは1800年代中頃から後期にかけてのテーブルトップです。

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これはマーケトリーと言って、異なる素材で模様(絵)が作られているのですが、その一部と表面に貼ってある薄い化粧材(ウォールナット)が剥離して失われてしまっています。
おそらく、花瓶か何かを置いていて、その水によるダメージだと思われます。

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失われている部分の模様を、残っている部分を参考にして新しく作り(もちろん、素材も同じものを使います)、埋め込んで色を合わせます。

こうして再びまた何百年と使われていくのです。