先日、様々な色や模様の石を集めて作られた象嵌細工のテーブル(19世紀)が工房に来ました。テーブルトップは石ですが、それ以外はローズウッドで作られています。修復箇所はローズウッドの部分に欠損がいくつもあったので、その欠損部分の作成と剥がれかけた箇所を膠で接着し直す作業でした。
<縁のアッシュフォード黒大理石の部分は磨く前、中心の黒大理石は磨いた後>
このような石の象嵌細工はイタリアのフィレンツェで作られたものが有名ですが、イギリスでも18世紀、19世紀に作られました。このテーブルトップはイギリスのダービーシャーの採掘場で採掘されたこの黒い石に色とりどりの石が嵌め込まれています。この黒い石はアッシュフォードで採掘されたためアッシュフォード黒大理石(Ashford Black Marble)と呼ばれていますが大理石ではなく黒い石灰石だそうです。この石は磨きあげると綺麗に輝くため、このような細工のベースに使われました。
このようにテーブルトップに様々な色や模様の石が埋め込まれたタイプのテーブルはSpecimen Table(標本テーブル)と呼ばれ、装飾美のためというのもありますが、裕福で教養のある貴族などが埋め込まれてる石を見てどこで採掘されたとか、なんという名の石かなど会話の話題作りの目的もあったそうです。
このようなアッシュフォード黒大理石で作られた象嵌細工は珍しく現在ではなかなか手に入らない貴重なものとなっています。私も一つ19世紀に作られた温度計を持っています。中心の白ぽい部分は象牙ですがそれ以外は石で作られています。