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これは少し前に手に入れた、18世紀に作られたエングレービングの道具です。一般的にエングレービングと言うと金属(金、銀、銅、真鍮など)の表面に施される彫りの細かい技術ですが他の素材にも使われました。このエングレービングの道具は、硬く木目が詰まったボックスウッド(Boxwood ツゲの木)を彫るもので非常に細かい版画を作るために使われました。箱の中に古いボックスウッドが残っています。

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通常であればここで話は終わりですが、この箱の中には小さな古いメモ書きが入っています。

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“I bought this box of wood engravers tools at the sale of John Hancock’s effects after his death. There was some tradition that they had belonged to Thomas Bewick the wood engraver. J C Richardson”

上記の古いメモから、これはジョン・ハンコック(John Hancock)の亡くなった後に買い取った道具で、元々はトーマス・ビューイック(Thomas Bewick)が所有していたことが記載されています。

調べてみるとジョン・ハンコックは19世紀のエングレイバー(彫り師)でトーマス・ビューイック(1753−1828年)はとても有名な木版画のエングレーバーであったことがわかりました。幼少期から絵の才能があり観察眼が優れていたトーマス・ビューイックはエングレーバーとして見習い修行をし、その才能を開花させました。

18世紀後期まで銅版画を使った印刷が主流でしたが、トーマス・ビューイックはボックスウッドを使った木版印刷の方法を確立します。この方法は銅版画よりも早く彫れることで価格を安くすることができ、銅版画ほど圧力を加える必要のないため木版画の方がより多くの印刷ができるようになりました。

彼が出版した「A General History of Quadrupeds(四足動物の歴史)」と「A History of British Birds(英国の野鳥史)」の木版印刷の挿絵の緻密さと忠実さは非常に高く評価され、彼は有名になりました。ここまで緻密で正確に描かれた挿絵は無かったそうです。そしてその後の本の印刷は木版印刷が主流になったそうです。

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そんな有名な人が使った道具、本当かどうかわかりませんが、こういうのがアンティーク収集の面白さでもあり魅力でもあると思います。