裁縫をする際に古くから使われできた必需品のひとつに指ぬき(シンブルThimble)と呼ばれているものがあります。修復の仕事で、薄い布の場合は指ぬきを使う必要がないので使いませんが、厚めの布や革の場合は針を押し込む際に指ぬきがないと針の元が指に刺さってしまい何度も痛い思いをしたことがあります。

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イギリスでは10世紀に作られ、14世紀には普及していたそうです。元々は指を保護するために生まれた道具でしたが、16世紀になると集める人も増え、贈り物としても普及しました。

素材は金属、革、ゴム、木材、ガラス、陶器、鯨の骨、動物の角、象牙、石、マザーオブパールなどが使われ、時代によって様々なデザインが生まれ、中には貴石やエナメル装飾が施され美しいものが作られました。このことから実用性だけではなくコレクションとしても普及したのが納得できます。

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<マザーオブパールと金で作られた指ぬきとエナメル装飾のシルバー指ぬき>

18世紀中期以前の古い指ぬきの表面にある複数の小さな窪みは手で一つずつ作られたため少しランダムになっています。18世紀中期になると表面に均等に窪みを作る専用の機械が作られ均等で早く作れるようになりました。また特に古いものは指ぬきの厚みがあり上部にふくらみがあるのに対し19世紀以降のものは薄めで上部は古いものほど膨らみはありません。

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<私のコレクション:16世紀に作られたNürnberg指ぬき>

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<1902年に作られたシルバーの指ぬき>

19世紀以降になるとシルバーで作られた指ぬきが多く普及しました。シルバーは輝きが美しいのですが柔らかく穴があきやすいという難点がありました。そこで有名な宝石商のチャールズ・ホーナー(Charles Horner)によってDorcas(内側は強度のある鋼で表面はシルバーで作られた)が発明されました。

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<サイドとトップに穴が空いた指ぬき>

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<Dorcas指ぬき>

初期のマイセンで作られた陶器製のものは絵付けがされ美しいものでしたが、実用には向いていなく記念品として作られたそうです。マイセンの指ぬきはかなり珍しく数が少ないので高額で取引されています。