私の住んでいる地域の売り買いの掲示板を時々見ます。生活に便利なものや修復の仕事で使える道具などの中古品が安く出ています。最近その掲示板を見ていて目に止まったのがこの中古のイスです。手前の足の装飾がチューダー朝なので一見アンティークぽいですが、デザインから1960年代に機械で大量生産された中古のイスであることがわかります。

chair

このイスを見て、私がイギリスの大学でアンティーク家具の修復を勉強しはじめた最初の年のことを思い出しました。家一軒をクラスメイト4人とシェアしていた時のことです。ある朝、大学に行く途中、路上に上の写真に似たデザインのイスが6脚置いてあり、自由に持っていってくださいという貼り紙が貼ってありました。

その頃はまだあまりアンティークの家具について知識や見る目が無かったこともあって、古いイスとそのイスに貼られた自由に持って行って下さいという貼り紙に興奮したのを思い出しました。日本のアンティークショップで何度か似たようなイスが1脚数万円で売られているのを見たことがあったので、これはすごいものを見つけたと思い、急いで家に戻り一緒に住んでいるクラスメイトと家に持って帰りました。

その頃は私も一緒に住んでいたクラスメイトも、家具を見ていつ頃作られたのか分かるほど見る目がなかったので、古く見えるのできっと価値があるものだろうと皆思っていました。ただ、6脚ものイスを保管する余分な部屋が無かったので、とりあえず屋根裏部屋に保管しました。

大学でアンティーク家具の知識や修復の経験が少しずつ増え、100年は経過していない家具であることが分かり、徐々に見つけた時の興奮が冷め、いつの間にか椅子の存在を忘れてしまいました。

今回、掲示板で見かけた椅子よりも大学時代に拾ったイスの方が古い印象でしたが、似たようなデザインであったため、すっかり忘れていた昔拾ったイスを思い出しました。もしかしたら今でも以前住んでいた家の屋根裏にあのとき拾ったイスが残っているかもと懐かしくなりました。