日本では押入れという便利な収納スペースがありますが、イギリスやヨーロッパ大陸の家ではそのような収納スペースが無いため数多くの家具が作られました。特に掛け布団やブランケットを収納する場合は大きな木製の箱に収納されていました。イギリスではコファー(Coffer)、チェスト(Chest)、ブランケットボックス(Blanket Box)などと呼ばれ古くから使われてきました。上が板状の蓋になっており、持ち上げてモノを収納します。

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(18世紀 オーク材のコファー)

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(18世紀 オーク材のコファー このように彫刻が施されたものも多いです)

このようなコファーの下の部分に引き出しが加わった家具があります。ミュールチェスト(Mule Chest)と呼ばれています。コファー同様に上の板が持ち上がり大きな収納が上部に、引き出し部分の収納は少ないです。少し珍しいミュールチェストで引き出しが2段あるものも存在します。

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(18世紀 オーク材のミュールチェスト)

個人的にミュールチェストが好きなので、探していたところ、ランカシャーミュールチェスト(Lancashire Mule Chest)を見つけ手に入れることができました。主に18世紀にランカシャー州で作られたタイプのミュールチェストで、見せかけの引き出しがついている珍しい家具です。一見するとタンス(Chest of Drawers)のように見えます。

通常はオーク材で作られ引き出しの淵の部分に化粧材としてマホガニー材が少し使われていることが多いのですが、これは主にマホガニー材で作られています(内側の構造部分はオーク材)。そして偽の引き出しは上部1列のみで、箱の部分が浅めなのも珍しい造りです。コファーやミュールチェストのように大きなモノを収納するというよりも、箪笥のような使われ方をしていたのではないかと思います。

当時は高価だった質の良いマホガニー材が沢山使われていることから、裕福な人が所有していた家具だと思われます。

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