イギリスの古い家具の修復を長年していると、作られた時の状態と大きく変わってしまったものによく出くわします。

数十年、数百年の間にインテイリアやデザインの流行が変わることは、現在でも普通にあるように、昔からありました。その時代の流れの中でマイナーな部分が変えられてしまうことはとても多く、家具のハンドルなどはよく変わっていることがあります。

しかし、家具の半分以上が変えられてしまったり、別の家具と融合させられてしまったものもあります。それらはイギリスのアンティーク業界ではマリッジ家具(Marriage Furniture)と呼ばれています。マリッジとは「結婚」のことですが「融合」「合併」の意味があります。

例えば、この家具の上部は聖書を入れるために作られた箱で、下の部分は後に付け加えられ一つの家具になっています。上部が開いて机になり、下部に引き出しがあるこのような家具(ダベンポート)は19世紀に生まれました。上部は1662年の彫りがあり、19世紀になって下部が作られたと思われます。明らかに上部と下部の彫刻のデザインと質が異なります。

Marriage Furniture1

この家具は三段とも全く異なるデザインと彫りになっているのがわかります。3つの古い家具が合わさって一つの家具になっています。

Marriage Furniture2

最近、修復工房に運ばれてきたものがこのテーブルです。一見何の問題のないテーブルに見えますが、足のハの字状になっている部分の木材はウォールナットで最も古く(恐らく18世紀初頭)、その部分から垂直に伸びたツイスト状の足と横に伸びるストレッチャーの材質はオーク(樫)で19世紀初頭、そしてテーブルの材質はオークとパインですが下部のオークよりも新しく19世紀後半もしくは20世紀初頭に作られたものです。

Marriage Furniture3

そしてこれらの家具の持ち主は、これがマリッジ家具であると知らないことがほとんどです。

「結婚」という意味を持つせいか、マリッジという言葉からはポジティブな印象を受けると思いますが、我々修復士やディーラーは、Marriage Furnitureという言葉をあまり良い意味では使っていません。やはりアンティークはオリジナルのままのものの方が価値があり、大きく手が加えられてデザインや家具の役割が変わってしまっていると、アンティーク家具としての価値は下がります。引き出しのハンドルなど、マイナーな部分のみが変わっているだけならば、オリジナルのものやそれに似たものに変えて元の姿に近づけることはできますが、マリッジ家具は元の状態に戻すことはできません。それもその家具が歩んできた歴史と言えばそうなのですが、個人的には、職人の作った元の状態がやはりデザインとして完成されたものであり、後の時代の人がそれに手を加えることは蛇足と感じてしまうのです。