アンティークでよく見かけ、古くから様々な用途で使われている金属の素材で真鍮(Brass)があります。私の本職であるアンティーク家具修復の仕事でも身近な金属で、18世紀以降の家具の象眼細工などの装飾、ヒンジ、鍵穴の淵、ロック、キャスター、ハンドルなどによく使われています。

真鍮とは銅と亜鉛の合金で、身近なものでは5円玉が真鍮でできています。新しい5円玉は金のように輝いていますが時間が経ったものは黒っぽくなっているのをよく目にすると思います。
この黒っぽいものの正体は酸化銅で、真鍮は空気中に置いておくだけで徐々に酸化し、表面がこの酸化銅の被膜に覆われてしまいます。また、水分にも弱いため、湿気や手の汗などでも変色を進めてしまいます。

少し黒ずんだ真鍮が味となって古びた良い雰囲気を作りますが、黒くなりすぎると装飾が見えなくなってしまうことがあります。現在工房で修復中のフランス家具(19世紀)のローズウッドの表面に真鍮の装飾が埋め込まれていますが、変色が進んで詳細が見えなくなってしまっています。

どこまでクリーニングするかは家具の持ち主の好みによります。

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特に足元の真鍮は変色が進んでいます。長い年月による変色ですが、湿気が多いフロアに近いことが原因だと思われます。

Brass2

修復前と修復後を比較して見ると、修復後の方は真鍮の装飾が際立ちます。この家具の持ち主は、装飾のコントラストがはっきりするまでクリーニングをしてほしいとのことでしっかりクリーニングしました。この後伝統的な塗装を施し修復完了です。修復前は美しい装飾がほとんど見えなかったので、持ち主はきっと喜んでくれると思います。

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