アンティーク家具の修復で、工房に運ばれてくる家具の中で最も多いものはイスです。毎日使う家具の一つで、木を組み合わせた接合部が多いためです。古いイスの接合部に使われている膠が乾き緩みはじめたものを使っていると破損の原因にもなります。

下の写真は、最近、大きな屋敷から修復工房に運ばれきて、修復したイス(全部で12脚のイスのセット)です。18世紀にマホガニー材で作られたイスです。接合部に緩みがあったので、バラバラにして新しい膠で接着、そして欠損部を作り直しました
(欠損して新たに作った部分 1枚目の写真:ストレッチャー、2枚目の写真:背もたれの一番下のレール)。

Chair1 Chair2

Chair3

1枚目の写真と2枚目の写真のイスは目立って違う場所があります。2枚目には大きな修理の跡があります(参照リンク「アンティーク家具の修理と修復の違い」)。これは昔、使用していて壊れた部分を、ブラックスミス(鍛冶屋)に鉄のプレートを特注で作ってもらい修理した跡です。とても目立つ修理の跡ですが、使用に問題ない強度になっています。鍛冶屋職人の技術が垣間見れ、味のある修理で私は好きな部分です。イスの歴史でもあり個性にもなっていると思うのです。

Chair4 Chair5

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背面にも両サイドに鉄の細長い板が埋め込まれ補強されています。

クライアントにこの昔の修理跡の良さを伝えたところ、同意してくれて残すことができました。

布張りの職人がうちの工房に来た時に、このイスを見てこの古い修理跡が素敵だと、私と同じ意見でした。古いものには壊れて直された部分はよくあるものです。その部分を綺麗にわからないように修復するのも良いですが、ごく稀ですが残すべき修理もあると私は思います。